猪瀬直樹さんのメルマガより

            2008年02月14日発行 第0484号 論説
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 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹

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「お鉢が回ってきた日本」

    モルガンスタンレー証券経済調査部長 ロバート・A・フェルドマン

 内外の投資家と話すと、日本が全く話題にならないわけではない。だが、日
本に関する興味の中身が変わったように思う。2003年から2006年までは、「改
革する日本」、「不良債権を克服する日本」だったが、最近は、「米国、欧州
で深刻化してきたサブプライム問題は、日本の失われた十年とどこが似ていて、
どこが似ていないか」になった。すなわち、日本は、回復ストーリーでもなく、
不在でもなく、反面教師の文化財である。博物館に置かれている恐竜のようで、
どういうものだったのか、なぜ絶滅したのか、ということ。

 日本経済の良いところ、潜在能力、改革力を長年世界の投資家に伝えてきた
経済学者である小生にとって、古生物学者になってしまう運命はさびしい。な
ぜ古生物学者になったのか、経済学者に戻る道があるのか、に関してコメント
したい。

■投資家が日本を見切売りをした理由

「外人投資家が売っているから日本株が下がっている」とよく聞きます。これ
は半分真実で半分嘘である。確かに海外投資家の殆どが、日本をアンダー・ウ
ェートかゼロ・ウェートにしている。一年前、海外出張をしたとき、顧客の会
合に参加したのは日本担当者だけではなく、グローバル・セクター担当者(す
なわち、ある業界で世界中のどの企業に投資をするかを決める人)及びグロー
バル・アロケーション担当者(すなわち、どの国に、資産の何割を配分するか
を決める人)も参加していた。最近出張すると日本担当者しか来ない。加えて、
彼らは「ボスたちに無視されている」とブツブツ言う。

 一見、外国人投資家の行動が日本株安をもたらしたように見えるが、80年代
後半も外国投資が日本株をアンダー・ウェートにしていた。すなわち、日本株
が一番上昇した時期は外人が買っていなかったのだ。「外人が売っているから
株価が下がっている」論に反対証拠がある。当時は、外人が売っても邦人は買
っていた。すると、今の株安は、外人が売っている理由も邦人が買っていない
理由も考えないといけない。

 両者の行動は異なる理由ではなく、同じ理由である。一言でいうと、日本の
マクロ改革もミクロ改革も逆戻りをしているからである。この傾向はすでに小
泉政権後半の与謝野経済財政担当・金融担当大臣時代に遡るが、安倍政権にな
って加速し、福田政権になって更に加速した。

■涙の道

 下り坂の第一歩は、消費者金融の取り組みかたである。最高裁の判決は経済
学の常識に違反しただけではない。判決の結果、欲張りの弁護士が動き出し、
必要ない裁判が多くなった。この現象は、米国の医療裁判と同じようなことで
ある。

 米語には「アンビューランス・チェーサー」という語彙があるが、救急車が
行くところに追いかけて行く弁護士の意味である。弁護士がケガをした人に提
案をする。

「訴訟を起こすと、陪審は被害者贔屓だから、お金は取れるだろう。取れたら、
俺が3割をいただく、取れなかったら、無料。相手には実は責任がなくても、
これは悪いことではない。なぜかというと、相手からお金を取っているのでは
なく、相手の保険会社からとっているだけだ」

 ケガをした人は、損はない得はあり、ということだから当然イエス

 弁護士は確率からいうとお金は取れる。結果は、医者の保険料も上昇し、全
ての国民の医療保険料負担も上昇する。最高裁消費者金融判決は、日本版ア
ンビューランス・チェーサー業界の礎石であった。

 消費者金融業界には片付ける必要のある面は沢山あったが、与謝野政策のや
り方は結局弱者いじめを悪化させただけだった。消費者金融のニーズに普通の
業者がこたえられなくなった結果、良い業者が撤退し、ヤミへ走った人は少な
くない。

 今までの行政失敗(例えば業者同士の情報交換は「白の情報だけ」など)も
警察の失敗(今までの違反を無視したこと)も完全に無視された。20%と29%
の間の貸し出しは違法かどうかの不明な、いわゆるグレーゾーンをなくすべき
であったが、29%に統一すれば「ヤミへ行け!」現象はなかった。この政策を
決めた金融庁の「専門家委員会」はいわゆる消費者団体の代表ばかりで構成さ
れ、業界代表の参加者はほとんど「聞くだけ」の存在であった。

 消費者金融問題の取り組み方は、結局「経済学を無視する」という形で決ま
り、かつ強引に実行された。世界の投資家達は、この政策プロセスをみて、日
本のことを経済学を考えない法治国家ではない国だと思い始めた。消費者金融
方針を含む与謝野時代の経済政策は日本売りの種まきの原点であった。

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わかっている人はわかっているんですよ。当業界の問題を超え、マクロ経済にも大きな影響を与えているとみなさん認識しています。

ここに来て消費者庁の創設や消費者過保護行政の動き等がありますが、また景気が冷え込みそーですね。
問題のある業者、取引、商品を取り締まり、被害者を手厚く保護すればいいことですよね。
それを事前に網を掛け、事業者の商行為・経済活動を阻害するようなことは止めるべきです。なぜらな大半の事業者はまともな会社で末永く存続したいらです。

もう少し前向き(改革)な政策をどんどん打っていかないと、温室育ちで権利ばかりを主張する過保護な国民が育ってしまうでしょう。後ろ向き(規制)の政策が続く限りは日本売りの流れを止めることはできないでしょう。残念ですが。