日経ネットPLUS より

竹中平蔵(慶応大学教授、日本経済研究センター特別顧問、元総務相
 1月下旬にスイスで開かれた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で福田康夫首相が「日本はオープン」と明確に述べたことは、海外のリーダー達からも大いに歓迎された。

■ギョーザと安全保障
 しかし帰国してみると、別の日本が待っていた。国土交通省が、空港運営会社に対する外資の出資比率を制限する法律を今国会に提出しようとしていたのである。経済財政諮問会議の民間議員や改革派の政治家の一部が反対しているが、どういう落ち着きになるか、注目される。

 伝えられるところでは、国交省はこうした外資規制は問題なく認められるだろうと考えているようだ。現実に与党の大部分も、また野党の有力者も、特に違和感を持っていないという。おりしも中国からの輸入ギョーザが問題になるなかで、外国製品や外国資本に対する不信感が高まっている状況もある。空港という施設は安全保障上も重要であり、これを外資に所有させると様々な問題が生じる、というロジックだ。

 一見して、反対し難い雰囲気があるだろう。しかし、安全保障や災害時の緊急措置が必要であるとしても、本当にそれを出資規制しかも外資に対する規制として実施する必要があるのかどうか、という点が重要だ。

 そもそも何らかの制約を課すことが必要だとしても、不当な価格つり上げや売り惜しみをなどの排除すべき「行為」を規制すべきであって、そのもとにある売買や出資などの「取引規制」を安易に行うべきではない。

 取引規制は、自由な市場経済の根本を損ねるからである。今回の空港の場合で言えば、非常時には政府や自治体が管理できるような工夫(武力攻撃や大規模テロに備えた国民保護法に基づく「国民保護計画」では銀行などの機関に対してこうした規定がなされている)をすればいいのであって、投資という自由な経済行為への規制は極力避けるべきである。

■投資規制では解決しない
 そもそも、外資の投資を規制したところで、問題は一向に解決できない。かつての日本赤軍のような日本人のテロ集団が株主になったらどうするのだろうか。そこには、外国人株主が危険で日本人株主は危険でないというとんでもない思い込みが存在している。取引規制ではなく、行為規制こそが意味を持つことになる。

 実は日本政府は、この問題ですでに大失敗を経験している。いわゆるグレーゾーン(灰色)金利での貸し付け禁止である。多重債務者の問題が深刻になったのを受けて、何らかの措置が必要なのは理解できる。しかしそのためには、無理な取り立て行為などを規制するか、あるいは破産を容易にすべきだ。金利規制という取引の自由を奪うようなことを法律で定めるべきではなかった。

 しかしこうした正論は聞かれないまま、上限金利の大幅引き下げ(しかも過去にさかのぼって)というゆがんだ取引規制が実施されてしまった。結果は、資金提供者である貸金業者の撤退や資金供給の低下であり、明らかにこれが昨今の企業倒産増加にも結び付いている。行為規制で対応すべきところを、取引規制を行った結果、経済を悪化させた典型的事例である。

 政策の世界にも、当然に守られるべき原則、いわば「政策リテラシー(基礎知識)」なるものがある。リテラシーの欠如で原則に反する政策が実施されれば、結局国民が困ることになる。自由な取引原則を十分に尊重した対応が必
要である。

日経ネットPLUS より

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規制緩和構造改革の推進に待った無しの状態であるにもかかわらず、政府、官僚、マスメディアは何を考えているんでしょうか?日本だけが地盤沈下していると感じる今日この頃です。